売却価格に影響を与える仲介会社のポイント7選
今回はM&A仲介会社のどのような要素が会社の売却価格に影響を与えるのか、7つのポイントに分けて説明します。
それぞれが相互に関係していますが、一つ一つ重要な要素ですので売却を検討する際には確認することをおすすめします。
M&A仲介会社の買い手候補のネットワーク
M&A仲介会社が多くの買い手先候補のネットワークを有している場合、短時間でより多くの買い手候補を見つけることが可能となります。
買い手候補が多くなるということは、状況に応じてオークションのような形で買収希望価格を買い手候補同士が出し合いその中から売り手企業が選択することが可能になります。
例えば、あなたの会社を買収すると既存事業との高い親和性(シナジー)が生まれて大きな成長が見込めると考え、どうしてもあなたの会社を買収したいと思う買い手候補が複数存在したとします。
その場合、買い手候補は買収のための適正価格(フェアバリュー)は定量的に計算するものの、それとは関係なく高い買収価格を提示することがあります。
買い手候補先が複数いる場合は、それぞれの買い手候補はライバルに劣らないように高い価格を提示する傾向にあります。
一方、買い手候補が1社しかいない場合は交渉をすることを前提にして少し低めに提示する場合もあります。
このようなケースはM&Aに限った話ではないですが、なるべく競争環境を作ることが売却価格を上げるためには重要です。
そういった観点でM&A仲介会社がどの程度買い手企業のネットワークを持っているか、また、現実味のある買い手候補を考えられるかが重要になります。
営業の際に示される買い手候補先のリストに対し、関係性や真実性を見極めましょう。
案件獲得の営業の際は仲介会社の各社が可能性の低い買い手候補でもなるべく多くリストアップして提示することもありますので、どのくらい確度の高い話なのかを仲介会社のネットワーク力も踏まえて見定める必要があります。
M&A仲介会社の企業価値評価(バリュエーション)の見方
一般的には売却価格/買収価格の理論価値は企業価値評価(バリュエーション)で算出します。
バリュエーションの算出には、過去の類似案件の取引価格や上場企業で近しい事業を行っている類似企業がある場合はその株価/時価総額も大事な要素になります。
バリュエーションの算出方法は大きく3つに分類されます。
- コストアプローチ(時価純資産法など)
- インカムアプローチ(DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法など)
- マーケットアプローチ(類似会社比較法(マルチプル法)など)
どの手法も計算の枠組み自体は決まっていますが、変数(パラメーター)も多く存在するため、算出する数字には違いが出てきます。
その設定する変数にはある程度の自由度があるため、バリュエーションを「数字遊び」と考える人もいますが、理論的に売却価格を説明するという観点でバリュエーションは非常に重要となります。
一般的にM&A仲介会社は投資銀行等のFA(フィナンシャル・アドバイザー)と比較するとバリュエーションを算出する力が高くないと考えられています。
それは、売り手企業が中小企業であることがほとんどのため、上場企業と比較してバリュエーションに対する説明責任がないのと、開示される数字や将来予想値の観点で算出が難しいということもあり、バリュエーションをFA対比で深掘って行うケースが多くないからです。
場合によっては外部のバリュエーション算出の専門家に頼んだり、過去の類似案件の数字から目安を決めるというケースも多いです。
バリュエーションの数字よりも、売り手企業と買い手企業が納得したM&Aを成約させる方を重視することがM&A仲介会社の仕事であると考える人が多いのも背景にあります。
そのような観点から、売り手企業と買い手企業の間を取り持つM&A仲介会社のバリュエーションの考え方や算出された数字の目安で売却価格は一定程度変わってきます。(但し、倍になるなど大きな違いではありません)
担当するM&Aアドバイザーには、バリュエーションについての考え方や理解を確りと確認するようにしましょう。
尚、売却益の課税(税金)については税理士等の専門家に確認する必要があるので、M&A仲介会社の中にアドバイスをくれる人がいるのかも確認しましょう。
M&A仲介会社の業界知識や業界動向の見方
M&A仲介会社が持っている業界の知識や過去の実績も売却価格に影響を与えます。
前述の通り、同業種における他社の過去の売却価格は、あなたの会社の売却価格の考える際に重要な目安になりますので、あなたの会社の業界の知識や成約実績があるM&Aアドバイザーだと説得力のある売却価格の説明が可能になります。
それに加え、バリュエーションを考える際に業界特有の気にすべきポイントや、資産価値に入れ込むべき要素なども業界知識があるとスムーズに行うことが出来ます。
例えば、テクノロジー業界(IT業界)では、特許や知的財産権などの資産価値が高く評価される傾向にあるためそれをどのように評価するのかも重要です。
他にも、医療業界(ヘルスケア業界)では、特許や知的財産権、製品の安全性や有効性、製品の開発段階、市場の需給、規制の厳しさなども売却価格に影響してくるためそれらの処理をどのように考えるべきかのノウハウを持っていると、より正しい売却価格を提示できるでしょう。
また、業界における今後の市場成長性の見方なども会社の成長にも大きく関わってくるので、M&Aアドバイザーが業界動向をどれくらい理解していて、どのように考えているかは確認しましょう。
こちらの記事でも記載した通り、投資銀行や一部の仲介会社では業界専門のM&Aアドバイザーが存在し、担当領域の業界知識やノウハウを蓄積して売り手企業により精緻なアドバイスを出来るような体制にしています。
以上のように、担当するM&Aアドバイザーがどの領域に強くて詳しいのかは売却価格に影響してくるので確りと確認するようにしましょう。
M&Aアドバイザーの交渉力
M&A仲介会社・M&Aアドバイザーは、売り手企業と買い手企業の双方が納得してM&Aを成約させるために、両者と調整しながら交渉を行うことになります。
仲介会社は基本的には中立の立場でスムーズに案件を成約させることを目指しますが、例えば売り手企業が「この売却価格以上ではないと売らない」という条件があった場合に、買い手企業対してその売却価格を交渉して納得させる必要があります。
交渉力が低いM&Aアドバイザーの場合、買い手企業に「その価格なら買わない」と言われてそのままM&Aが破談になるところを、交渉力のあるM&Aアドバイザーの場合は、上手に提案や交渉をすることで買い手企業も納得した買収となり、M&Aを成約させることができることもあります。
また、交渉力に優れているM&Aアドバイザーの場合、売り手企業にとってより有利な条件を引き出すことができる可能性もあります。
売り手企業が求める売却価格で買い手が見つからない場合に、将来的には売却価格の水準を下げる必要性も出てくるでしょう。
このようにM&Aアドバイザーの交渉力は買い手企業側のグリップを含めた売却価格に影響を与えます。
過去の交渉実績を確りと確認し、交渉力のあるM&Aアドバイザーなのかどうか見極めるようにしましょう。
M&A仲介会社の評判・信頼性
評判が良く、信頼性が高い仲介会社かどうかも売却価格に影響を与えることがあります。
M&A仲介会社が高い信頼性を得られている場合、買い手企業はその仲介会社が提供する情報や紹介する案件に信頼をおくこと傾向にあります。
そのため、買い手は高い信頼性を持つ仲介会社が紹介する案件に対し好意的な評価を与える傾向があるため、買収価格が上昇する可能性があります。
逆に、「この仲介会社が紹介する案件はあまりよくないし、いつもターゲットから外れている」という信頼感が低い仲介会社の場合、買い手も疑いの目で見ることから始めるので買収価格がそこまで上昇しない可能性もあります。
他にも仲介会社の信頼性という観点では、売却プロセスのスピードや円滑さも重要な要素になります。
連絡の頻度や対応の仕方が悪いことによって買い手企業が不信感を募らせて折角検討していた案件であってもキャンセルすることもあり得ます。
また、前述した買い手のネットワークとも関連しますが、信頼の高いM&A仲介会社は幅広い買い手候補とのネットワークを持っているケースも多く、買い手候補が多いと売却価格が高くなる可能性も高まります。
売却価格に関係なく評判がよく、信頼性の高いM&A仲介会社・M&Aアドバイザーを選定することは重要ですが、M&Aアドバイザーの質が売却価格にも影響を与えることも留意しておきましょう。
M&A仲介会社の手数料
仲介会社の手数料が売却価格に影響を与える可能性もあり得ます。
買収金額に対して仲介手数料の占める割合はそこまで大きくないので、基本的には仲介手数料が高いから買収を諦めると考える買い手企業は多くないと考えられます。
一方で、買うべきかどうかで悩んでいる検討段階において、手数料相場に対して高い手数料の仲介会社の案件の場合は、手数料が理由で買収の検討をしないという判断をするケースもあります。
逆に仲介手数料が相場より安いからその分を買収価格に上乗せできると考える買い手候補もいるかもしれません。
また、そこまで規模が大きくない企業が買い手企業としてM&Aを検討する際も、手数料が思っていたらよりも高額で買収を行わないという判断をする方も中にはいます。
手数料が直接的に買収価格に影響を与えるケースは多くないと考えられますが、業界の手数料相場を確認し、アドバイザリー契約を結ぶ仲介者の手数料が不当に高くないかを確認することは、正当な売却価格を提示してくれる買い手候補を逃さないためにも重要になります。
⇨仲介会社の手数料相場についての記事はこちらをご覧ください
M&A仲介会社のマクロ市場を見る力
M&Aアドバイザーがマクロ経済に対する考えを持っているかどうかも売却価格に影響します。
中小企業は上場会社と異なり、市場で株価がついているわけではないので経済状況はそこまで影響を与えないと考える方もいるかもしれません。
しかし、資産の価値の算出、買い手の投資意欲、銀行からの借り入れ条件、類似企業のバリュエーションなど中小企業であってもマクロ状況がM&Aの売却金額に与える影響は数多くあります。
売り手企業のオーナーにとって、売却を決断したらなるべき早くスムーズに数か月以内で売りたいと考えるのは当然ですし、仲介会社もそれを目指してアドバイスをしますが、そこまで売却を急いでいない場合などは少し時期をずらせばより高値で売却できるといったケースもあり得ます。
経済動向は予想できるものではないので先を見通すのは難しいですが、売却プロセスを始める際はM&Aアドバイザーにも相談して、マクロ経済が与える売却価格の観点から今すぐ売却するのが良いのかどうかは確認する価値はあると考えられます。
そのような点からもマクロ市場の相場観を持ったM&Aアドバイザーを選ぶことはより良い選択と言えるでしょう。
まとめ
今回は、なぜM&A仲介会社やM&Aアドバイザーによって会社の売却価格が変わってくるのかについて説明しました。
この7つのポイントを踏まえて事前に確りと確認すれば、あなたの会社が不当に安い売却価格になることはないと考えています。
会社を売却したお金で、家族に対して財産を残すことも出来ますし、新たな何か挑戦を始めることも出来ますし、好きな物・欲しかった物を買うこともできます。
良いM&A仲介会社、良いM&Aアドバイザーを選定してなるべく高い売却価格を目指しましょう。
ただし、本文中でも記載した通り、営業してくるM&A仲介会社の中には実現性の低い高値の売却価格を提示してくるところもあります。
そのような売却価格を期待して売却プロセスを始めたものの、買い手企業が全く見つからず何年間も精神的にも辛い期間が続くといったことがないように注意しましょう。
一社でも多くの売り手企業のM&Aが成功することを願っています。